最新臨床栄養学トピックス

2022年12月5日

牧宏樹先生からレポートが届きました。

論文紹介:牧

ビタミンD欠乏症とCOVID-19の関連
46カ国における発症、合併症、死亡率との関連 生態学的研究

著者:Javier Mariani et al.

雑誌:Health Security,2021;3:302-308

この論文を選択した理由:栄養と新型コロナウイルス感染症という私たち誰もが非常に興味をもつ栄養学的な研究であり,かつ多くの人々の健康に関連することから極めて公衆衛生学的な研究でもある。研究データは46か国のオンラインで公表されているデータを収集されたことも興味深い。

■論文概要

背景:
コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の影響(すなわち罹患率と死亡率)を軽減するためには、患者一人一人の免疫防御が大きな役割を果たす。ビタミンDは、免疫系の重要な調節因子であり,血清25-ヒドロキシビタミンD濃度は、食事やサプリメントによって上昇させることができるが、体内のビタミンDの大部分は、紫外線による皮膚合成の結果である。皮膚でのビタミンDの生成は、肌を覆う衣服、日焼け止めの使用、皮膚の色素沈着などによって制限されることがある。また,ビタミンDの欠乏は、世界の多くの人々に影響を及ぼしており,特定のリスクグループだけでなく、多くの国の成人において、血清中の25-ヒドロキシビタミンDレベルが最適でないことが分かってきている。したがって、低ビタミンDレベルは、SAR-CoV-2を含むいくつかの異なる病態のリスクファクターとなる。本研究では、生態学的デザインを用いて、ビタミンD欠乏とCOVID-2との関連性を評価した。

方法:
ビタミンD欠乏とCOVID-19の発症、合併症、死亡率との関連を46カ国で評価した。すべてのデータは公表された情報源から入手した。

結果:
ビタミンD欠乏の割合とCOVID-19の感染リスク、重症度、死亡リスクとの間に、集団レベルでの関連があることが示唆された。

考察:
平均血清25-ヒドロキシビタミンD濃度が高い群の、急性ウイルス性呼吸器感染症の発症率は、濃度の低い群の半分以下であった。また,別の生態学的研究によると強い太陽紫外線にさらされた地域社会は、1918-1919年インフルエンザのパンデミックの夏も冬も致死的な割合が顕著に低かった。VDサプリメントはcovid-19感染症に保護的な役割を担うというエビデンスが報告されている。今回の研究は生態学的研究であるため、この結果は、ビタミンD欠乏症の個人がCOVID-19感染の死亡のリスクが高いことを意味しない(これは生態学的誤謬であろう)。しかしながら、異なるデザインの他の研究からの観察結果は、本研究の結果と一致している。

コメント:
データはすべてオンラインで公表されているデータを用いており,46か国レベルでビタミンD欠乏とCOVID-19の感染リスクを生態学的デザインを用いてみている点に価値があると考える。多くの人々の健康に影響を与える栄養とCOVID-19の関係をこのような視点で捉えることは極めて重要であり評価されるべき研究である。著者はVDが免疫と関係しているということから,このビタミンD欠乏とCOVID-19の感染リスクについての仮説を考えたと推測される。生態学的研究は,集団を観察単位として、原因と結果の相関を調べるという特徴がある。このような研究から栄養とCOVID-19の関連が示唆され,さらなる研究で因果関係が明らかになり,将来的に栄養介入によりCOVID-19の発症、合併症、死亡率の低下につながっていくきっかけとなれば多くの人々の健康の向上につながり価値のある研究を推進していくことになる。その第一歩がこのような生態学的研究であることが理解できる論文である。JSPEN会員が取り組むのであれば,簡単に入手できる栄養学的指標を用いて新たな視点を取り入れPECOを作成することでCOVID-19の感染症に関する臨床研究も可能であろう。またこのような臨床栄養研究に取り組むことが私たち栄養療法に従事する医療者にも求められているのではないかと考える。

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