新規の総説論文が掲載されましたので紹介します。
筆頭著者は、JSPEN U45メンバーの松尾晴代です。
Pathophysiology of Cachexia and Characteristics of Dysphagia in Chronic Diseases
雑誌:Asia-Pacific Journal of Oncology Nursing (Open access)
https://doi.org/10.1016/j.apjon.2022.100120
著者:Haruyo Matsuo,Kunihiro Sakuma
■論文解説
がん、COPD、心不全における悪液質の病態と嚥下障害の有病率、評価方法、臨床転帰、薬物治療の関係に焦点を当てた総説論文です。
悪液質は、食思不振、体重減少、骨格筋の減少などを主徴とした病態です。がんのみならず、多くの疾患に合併して認められ、その本態は全身性慢性炎症です。悪液質で観察される多様な症状は、腫瘍が分泌する各種の因子や炎症性サイトカインが原因です。悪液質とサルコペニアは、両方の病態において共通する因子が存在します。基本的に加齢がサルコペニアの原因ですが悪液質や低栄養、廃用症候群などを併発する場合には、より若齢でもサルコペニアが生じます。最近の研究において、嚥下障害は、低栄養やサルコペニアと密接に関係することが示されています。慢性疾患特有の要因が、嚥下障害の臨床転帰に影響を与える可能性があります。嚥下障害は高齢者で頻繁に観察されるが、現時点で、悪液質が嚥下障害の直接的原因であることを示すエビデンスはありません。嚥下障害は、低栄養や脱水、窒息、誤嚥性肺炎、死亡などに関連する深刻な問題であるので、疾患の治療だけでなく、嚥下障害の程度を正確に把握することが必要です。
悪液質の体重減少や食思不振による経口摂取量の低下は、嚥下障害に影響を与えるかもしれません。臨床的な嚥下評価はルーチンに行う必要があります。嚥下障害の評価のやり方は研究によってかなり差があるので、嚥下障害を過小評価する可能性があります。嚥下障害は臨床転帰に関わる重大な問題であるので、その正確な評価および丁寧な管理は、悪液質の診断・治療計画に組み込むべきであると考えます。