最新臨床栄養学トピックス

2022年5月11日

GLIM基準について松井亮太先生からレポートが届きました。

論文紹介:松井近年,臨床栄養に関わる世界的な診断基準が続々と発表されています.2018 年に世界の学会コンセンサスを得た低栄養の診断基準として GLIM 基準が発表されました(CederholmT, et al. Clin Nutr 2019;38:1-9. doi:10.1016/j.clnu.2018.08.002).GLIM 基準では,栄養スクリーニングツールを用いて低栄養リスクありの人を対象に phenotypic criteria(体重減少,低 BMI,筋肉量低下)と etiologic criteria(食事摂取量の低下,炎症の存在)の組み合わせで低栄養と確定診断します.低栄養診断後に phenotypic criteria を用いて重症度を判定します.筋肉量はもはや栄養診断に重要な項目の一つに位置付けられています.
筋肉量低下はこれまでサルコペニア診断に重要な項目として注目されてきました(CruzJentoft AJ, et al. Age Ageing 2019;48:601. doi: 10.1093/ageing/afy169).サルコペニアはあらゆる疾患で予後や治療成績を不良にすることが明らかとなっています.GLIM 基準低栄養がある場合にはサルコペニアが併存している可能性が高く,サルコペニア診断基準を用いてスクリーニングする必要があります.逆にサルコペニアと診断した場合には低栄養が背景にないか判断する必要があります.以上より GLIM 基準低栄養とサルコペニアは併存しやすいことを念頭に,それぞれの存在を意識しながら栄養・運動介入を行う対象を同定する必要があります.
GLIM基準の診断精度をまとめた系統的レビューでは,従来用いてきた栄養アセスメントツールと比較して診断精度が高いと報告されていますが,多くの研究で筋肉量測定が行われていないという問題点がありました (Huo Z, et al. Clin Nutr 2022 ;41:1208-17. doi:10.1016/j.clnu.2022.04.005).現在の診断基準では,下腿周囲長など測定しやすい筋肉量の基準値はなく,今後は日常診療でより使用しやすい診断基準の改訂が望まれます.また GLIM 基準では肥満患者の過栄養を評価することが難しいという欠点があります.2022 年にサルコペニア肥満のコンセンサス論文が発表となりました(Donini LM et al. ClinNutr 2022 ;41:990-1000. doi: 10.1016/j.clnu.2021.11.014).肥満患者ではサルコペニアが併存することで治療成績が不良になることが報告されています.今後はサルコペニア肥満の診断基準の妥当性やアウトカムとの相関を検討し,肥満患者の中で介入すべき対象を絞り込んでいくことが期待されます.
どれも近年発表された診断基準で,診断確定した後に重症度を判定する流れになっていますが,現状では診断精度やアウトカム予測について未知なことも多いです.しかし世界的な学会が地域・領域を超えて診断体系を構築してきたことは素晴らしく,これらを周知し,日常臨床で広く適応してその問題点を吟味し,結果をフィードバックして改訂していく必要があります.このようにみんなで使用して診断基準をより良くしていくことで,未来へつながる素晴らしい臨床栄養の世界が構築できるのではないかと思います.臨床栄養の醍醐味は,それぞれの治療効果を高めてくれるところにあります.いつか栄養療法そのものが,手術や抗がん剤などの治療と肩を並べて『標準治療』に位置付けられる日を夢見て,後世につなげられる仕事ができればと考えています。
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